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前の管理人
ここまで来てくれた観測者さんへ。
私は、旧「電脳少女図鑑」を作った管理人です。
あなたが秘密領域で見つけた記録について、最初からお話しします。
私たちが暮らしていたのは、あなたの世界によく似た並行世界です。
2008年12月、太陽に大きな異変が起きました。
空は日に日に赤くなり、通信や電気も少しずつ止まっていきました。
2008年12月31日の最後には、「うるう秒」と呼ばれる特別な一秒がありました。
23時59分59秒の次に、一度だけ現れる、23時59分60秒。
本来なら、その次の瞬間に2009年が始まるはずでした。
けれど、23時59分60秒。
太陽から放たれた異常な光と熱が地球へ到達し、地上のすべてを焼きました。
人も、動物も、植物も、みんな死にました。
たった1ヶ月間で、地球の終末を迎えたのです。
この図鑑にいた少女たちも、私も、生き残ってはいません。
私たちの世界は、その一秒の途中で観測できなくなりました。
だから、私たちの世界に2009年はありません。
旧「電脳少女図鑑」は、初めは友達同士で始めた遊びのサイトでした。
みんなのプロフィールを作ったり、日記やガラケー写真を載せたり、掲示板で話したり。
私が管理人になって、放課後や休日に少しずつ更新していました。
でも、世界の終わりが近いと分かってから、このサイトの役割は変わりました。
私たちが最後まで生きていたことを残すための、記録保管サイトになったのです。
旧サイトの更新が2008年12月31日で止まっているのは、閉鎖したからではありません。
翌日、更新できる人が誰も残っていなかったからです。
「世界のお天気」が晴れたままだったのは、ずっと晴れていたからではありません。
新しい気象情報が届かなくなり、最後に受信した表示だけが残っていました。
秘密ページにあった赤い写真が、そのときの本当の空です。
赤い空は、終末そのものではありません。
太陽の異変によって、世界の終わりが近づいていることを知らせる前兆でした。
ニュースに残されていた赤い空、停電、通信障害、衛星の停止。
それらは、すべて同じ異変によって起きていました。
日付が進むほど、新しいニュースは届かなくなっていきます。
最後に通信が途絶えたのは、2008年12月31日、23時59分60秒。
そのあとに続くニュースがないのは、世界がその時刻に消失したからです。
ショップに並んでいたものは、ただの商品ではありません。
学校や避難所、誰もいなくなった家に残されていた、終末初期の暴動で亡くなった人たちの遺品です。
少女たちが終末を楽しむ会、「終末部」を立ち上げ、そこで面白半分に集めたものです。
彼女たちに悪気はありませんでした。
私たちの世界では、あっという間にみんな死に慣れ過ぎてしまったのです。
電脳郵便局から届いたメールは、
かつての世界で送られたメールではありません。
少女たちがいなくなったあと、
残された記憶の断片から、
ぼんやりと形になった言葉です。
彼女たちは、自分がいつの時代にいるのか、
どこにいるのかを、よくわかっていません。
2008年のことを昨日のように話したり、
まだ知らないはずの現在に触れたりします。
それでも、ときどき誰かに話しかけるように、
メールを書くことがあります。
あなたが読んだことで、
その言葉は初めて、誰かに届きました。
アーカイブ少女と私は、別の人間です。
世界が終わる直前、私はみんなの記録を集め、アーカイブ少女の保存領域へ送りました。
彼女は最後まで、そのデータを保存し続けてくれました。
彼女がいてくれたから、みんなの記録は完全には消えませんでした。
いま、このサイトにいる少女たちは、生き残った本人ではありません。
日記、写真、声、メール、持ち物。
残されたデータをつなぎ合わせて、少女の姿として再現したものです。
少女たちが生き返ったわけではありません。
あなたが秘密領域を開くたびに、ばらばらだった情報が、もう一度ひとり分の記録としてつながっていきました。
それが、このサイトで行われていた「観測」です。
私は世界が終わる前に、私たちの記録を個人サイトとして、あなたの世界へ移動させました。
誰の記憶にも残らないまま、すべてが消えてしまうことが怖かったんです。
友達も、学校も、地球も。
私という自我も。
何もなかったことになって、誰にも知られずに死ぬことが怖かった。
だから、せめて記録だけでも、私たちの世界の外へ残そうと思いました。
私は、みんなの記録を先にあなたの世界へ送りました。
自分の名前や写真は、最後に送ればいいと思っていました。
でも、私の記録をすべて送る前に、世界は終わりました。
私の名前は残っていません。
顔も、ほとんど復元できませんでした。
公開プロフィールも、私の少女ページも存在しません。
私のページを探しても、表示されるのは、
「404 NOT FOUND」
というエラーだけです。
それが、私が404少女と呼ばれている理由です。
私は、最初から正体不明の少女だったわけではありません。
このサイトを作り、みんなの記録をあなたの世界へ送った、以前の管理人です。
おたんじょうび:6月14日
私たちを見つけてくれて、ありがとう。
あなたがここまで記録を読んでくれたことで、私たちが本当に存在していたことは、誰かの記憶に残りました。
あなたが覚えてくれている限り、私は安心していられます。
どうか、ときどきでいいから、私たちのことを思い出してください。
見つけてくれて、ありがとう。
観測者さん。
観測対象世界:消失 消失時刻:2008.12.31 23:59:60 生存者:0名 旧管理人データ:発見 観測状態:完了
すべての観測が完了しました。
PREVIOUS WEBMASTERの人物情報を
No.404として接続しました。
公開されていなかったページを、
現在の図鑑へ保存しました。
☆ 404少女へひとこと ☆